ISBN:4001140411 単行本(ソフトカバー)2000/06 ¥756

『トムは真夜中の庭で』 TOM’S MIDNIGHT GARDEN

text by Philippa Pearce (1958)
illustrations by Susan Einzig

著:フィリパ・ピアス
訳:高杉一郎

岩波少年文庫041(岩波書店)

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せっかくの休暇を目前に、おじの家に預けられることに
なったトム。弟のピーターがはしかに罹ったために
一時的に隔離されることになったのだ。
迎えに来てくれたアランおじさんの前でも、不機嫌を
つくろおうともせず、トムはたいそう滅入っていた。

子供のいないおじおばの家は、さして広いわけではない。
庭のないアパートは古い上層階級の邸宅を改築しており
複数の世帯が住んでいる。

はっきりはしかに罹っていないことを確認するまで
外出もままならず、おばの持ち物の少女小説を
読むくらいしか退屈を紛らす手段が無い。
おじは理屈っぽく、しつけには厳しいところがあり
トムに夜更かしをきつく禁じた。
暗闇の中、眠ることができずにいたトムは、階下の
ホールの大時計が鳴らす時の音を数えて不思議になる。
時計の音は13回・・・。

確かめに降りていくと、誘われるように開けた扉の
向こうに、昼間はなかった庭園が広がっていた。

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童話でもコミックでも、勿論大人向けの小説であっても
時を駆ける、異世界に迷い込む話は多い。

これもその類の話だと思って随分前に購入した。
通販サイトの「おすすめ」に引っ掛かったのだ。

トムは真夜中の庭で、ビクトリア朝時代の少女ハティに
出会う。他のひとには見えないトムが見えるらしい。
徐々に明かされる不幸な生い立ちは、彼女の独り遊びの
理由を充分に説明していた。

トムは真夜中だけ出現する庭に降りて行くのが
楽しみで仕方ないようになっていくが・・・。

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時を遡っているのか、昔と今の時間や空間が、真夜中の
ある一定の場所で交差しているのか・・・という
少しでもSF的な香りを探そうとするよりも
少年と少女の友情をじっくり観ていたくなる。
いつまでも少年のままのトムと、気がつけば
いつのまにか成長しているハティ。

休暇も終盤になり、弟のはしかも治って
トムが家に帰る日が近付いてくるころ
先がどうなるかとても気になっていた。

後半読者にも少しずつわかってくる謎の真相と
物語の終わりに至るエピソードは一気に読めるし
またラストシーンが良かった。

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挿絵はさすがに時代がかってはいないだろうか?と
読む前から思っていたのだが・・・。
読んでいるうちに慣れてきてそうでもなくなった。
あとがきで作者の言葉を読んで、オリジナル本のために
描かれた思い入れのある挿画だと知りました。

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岩波少年文庫には良質な話が多い。

長い間愛され、残っている話は
今読んでも、心に染み入る。
この先もずっと残って欲しいと思う。

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