野望円舞曲 (6)

2005年10月12日 読了本
ISBN:4199051511 2005/06/07 ¥700

著:田中芳樹/荻野目 悠樹
イラスト:九織ちまき

徳間デュアル文庫(徳間書店)

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オルヴィエート元首の娘エレオノーラはかろうじて<宙峡>崩壊の危機を
救った。しかし身を挺して自分を守ってくれたコンラットの言葉に
彼女の復讐心は微妙に揺れ動く。何もかも捨てて新しく生きていく道も
目の前にはあるかもしれない。重傷を負ったコンラットは、彼女への想いから、
また令嬢のある秘密を知るが故に、その野心を捨てさせようとする。

しかしエレオノーラはボスポラス帝国と対抗するローレンシア条約機構の
政治的な策略にはまってしまう。彼女の腹心の侍女であり親友のベアトリーチェと
共に、エレファンティナ=ローンセストン管制要塞に軟禁されてしまう。

一方、エレオノーラの父親、国家元首レオポルト・ファルネーゼの元に
娘の調査報告が届けられた。差出人からのメッセージは
<あなたの娘には宇宙の歴史を塗り替える力があります…>
父親が下した結論は、娘を欠片残さず宇宙から消し去るという事だった。

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久しぶりの続刊。
それまでどんな話だったかちょっと忘れてた。
前巻のラストで覚えているのは、<宙峡>の崩壊を食い止めるお嬢さんたちと
いつも危機になると助けに来る工作員コンビが奮闘するところ。
あとはコンラットがこれまたオイシイところを持って行ったなあと。
でもこれで死んじゃったら一気に読む気失くすだろうなと思ったこと。
良かった無事で。令嬢と彼のイライラするくらい焦れったい関係が
このシリーズの見所のひとつであるからして、まだ終局まで長そうなのに
こんなところで逝かれては悲しい。しかし今回はまた二人のすれ違いが明確に。

あと、やっぱり田中芳樹さん風味。
なんというか、ハシバシで銀英伝を思い出すのは仕方ないとしても
腹心の部下が主人を庇う、というのは何回も使えるエピソードでは
無さそうな気がする。今後どうするんだろ。
ベアトリーチェにしてもノーラの兄ジェラルドの部下アルフォンソも
二人とも常に生命の危機に曝されているような気がします。

実際の筆者はどのくらい自分の味を出せているのか
今のところよくわからない。

今回は兄妹二人ともそれぞれの敵から暗殺されそうになるのだが、
エピソードとしてはさらに大きく動く前の準備段階という気がする。
たくさん読んだなあ、と思うわりには、ぎっちり内容が濃かった気がしない。
この先どうなるのか、また数年新刊が出るのを待たされるのだろうか。

設定や状況説明、人物について細かくてそれを把握するのが大変。
壮大な物語を読むとき、それも楽しみのひとつではあるが・・・。
複雑にからみあう人物関係やら、勢力図やら・・・癖のあるキャラクター
それぞれを主役にしてもおかしくないので、相変わらずノーラの存在が
際立たない。何かと周囲に助けてもらうことが多いからか。

彼女が自分自身で運命を切り拓く様子がもっと派手だといいのだけれど
兄ジェラルドが主人公みたいなときもあるし、それぞれの腹心がメインで
事情を抱えているときはそっちに目移りするし。

今回の巻では、脇役のガーラも強烈に出張ってきてました。
このイラストが彼なら、美形悪役でけってい。
前の巻までは意識してなくて、嫌なタイプだなーと思ってましたが。
顔がいいとやはり得なのだ。あ、でももしかしてもう出ない?

野望を抱く男性が主人公の場合、恋心を抱く対象から、
「危ないことはせず自分のためにその野心を捨ててくれ」と言われても、
こんなに揺れるだろうか。
女性が主人公ならではの揺らぎっぷり、その描写かな。

野望円舞曲のシリーズを読むたびに思うのは
ヒロインにあまり共感することができないということだ。
目的のために手段を選ばなくとも、自分の決めた道に邁進する姿は
少なくとももっと主人公に寄り添える要素になると思うのに。

彼女の場合は極めて個人的=父親に復讐するという理由のために
多くの人間を滅ぼし、窮地に立たせ、宇宙を混乱させる要因の一部を作っている。
彼女自身の秘密や、暗躍する団体や個人がからむので複雑化していることは
確かにあるのだが。それは置いておいて。

野望を抱くきっかけなど、些細なものであることは多い。
貧乏で苦しみ金が欲しい、名誉と力が欲しい。
誰かを見返したい、そんな「個人的」な理由から始まることは多い。
ほとんどそうかもしれない。

好きな人の言葉にも、親友や関係のない人々を巻き込んでいるという自責にも
揺れながら、頑張って前を向いて、振り返ることをヨシとしない・・・
こうして書くと如何にも主人公としての魅力があるような彼女が
どうして時折ただのエゴイストにしか見えないのか。

禁忌の技がノーラに人間ではない力を持たせたとしても、今はそれで
どうなるものでもない。力の無い小娘が大きな力を持つ父親に反抗する様子に
振り回されて、時々死にそうな程の迷惑を被る周りの人間が哀れだと
あえてそう書いているとしか思えない。
だからこそコンラットにああいう台詞を言わせるのだと思う。

その彼女が今後どうするのか、どうなるのかはまだ気になるので
続刊を気長に待とうと思います。
願わくばもうちょっと、ヒロインが生きる活躍の場を与えて欲しい。

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