ISBN:4480022724 1988/12 ¥756

著:阿部 謹也
ちくま文庫(筑摩書房)

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○第一部 笛吹き男伝説の成立

はじめに

第一章 笛吹き男伝説の原型

グリムのドイツ伝説集
鼠捕り男のモチーフの出現
最古の史料を求めて
失踪した日付、人数、場所

第二章 1284年6月26日の出来事(→原文漢数字)

さまざまな解釈をこえて
リューネブルク手書本の信憑性
ハーメルン市の成立事情
ハーメルン市内の散策
ゼデミューンデの戦とある伝説解釈
「都市の空気は自由にする」か
ハーメルンの住民たち
解放と自治の実情

第三章 植民者の希望と現実

東ドイツ植民者の心情
失踪を目撃したリューデ氏の母
植民請負人と集団結婚の背景
子供たちは何処へ行ったのか?
ヴァン理論の欠陥と魅力
ドバーディンの植民遭難説

第四章 経済繁栄の蔭で

中世都市の下層民
賤民=名誉をもたない者たち
寡婦と子供たちの受難
子供の十字軍・舞踏更新・練り歩き
四旬節とヨハネ祭
ヴォエラー説にみる<笛吹き男>

第五章 遍歴芸人たちの社会的地位

放浪者の中の遍歴楽師
差別する側の怯え
「名誉を回復した」楽師たち
漂泊の楽師たち

○第二部 笛吹き男伝説の変貌

第一章 笛吹き男伝説から鼠捕り男伝説へ

飢饉と疫病=不幸な記憶
『ツァイトロースの日記』
権威づけられる伝説
<笛吹き男>から<鼠捕り男>へ
類似した鼠捕り男の伝説
鼠虫害駆除対策
両伝説結合の条件と背景
伝説に振廻されたハーメルン市

第二章 近代的伝説研究の序章

伝説の普及と「研究」
ライプニッツと啓蒙思想
ローマン主義の解釈とその功罪

第三章 現代に生きる伝説の貌

シンボルとしての<笛吹き男>
伝説の中を生きる老学者
シュパヌートとヴァンの出会い

あとがき

解説 泉のような明晰 石牟礼道子

参考文献

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私のうろ覚えでの笛吹き男伝説はこうだ。
大量の鼠に困ったハーメルンの大人たちが
奇妙な格好(扮装)をした笛吹きに退治を依頼した。
笛吹きが笛を吹くと男のもとにネズミたちが集まり
付き従う。男は水辺までネズミたちを引き寄せておいて
溺れさせ、見事に街からネズミを追い払う。
男は約束の代価を要求するが、街の大人たちは
そんなことは無かったように冷たくあしらう。
笛吹き男は報復に街の子供たちのほとんどを楽の音とともに
連れ出し、二度と戻ってこなかった・・・。

笛の音にふらふらと引き寄せられたのか
楽しくなってついて行ったのかどっちだろう。

私の昔から抱いていたイメージでは、
子供たちに慕われる大道芸人のような男なのだが
街の大人たちが約束を破ったことに「怒って」
その「報復として」子供を攫う、というちょっと
恐ろしげな豹変振りが不気味。

子供たちは辛く哀しい場所にいくんじゃなくて
わからずやの大人たちを置いて
楽しく明るい新天地に行ってしまい、いつまでも
幸せに暮らしましたというようなオチなら
遠い外国の昔話を、いつまでもこんな、シコリのように
後味の悪さを、覚えているもんだろうか・・?

ハーメルンといえば笛吹き男。
すぐこのイメージが浮かぶ。
(ブレーメンなら音楽隊だなぁ(笑))

伝説はどうして起こったのか。
なぜ<笛吹き男>なのか。

人攫い、事故や災害、疫病、戦争。
大量殺人、儀式の犠牲、人外のものの存在、
超自然の力、タイムトリップ、などなど。
様々な理由をこじつけることが出来るが
肉親と離れ、それが伝説になるほど街に遺るのは
他に何があるだろう。

同じような疑問をふと持つ人がいたら
ぜひこの本をお薦めしたいです。

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ネズミ捕りの話が後から付け加えられた(らしい)ことは知らなかった。考えられてきた原因のひとつに東ドイツへの移住があること、子供の十字軍のこと、教会の圧力や伝説の利用と普及など中世の歴史事情がたくさん。特に前半はまるで推理小説のようにわくわくしながら読んだ。

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