時の旅人

2005年3月27日 読了本
ISBN:4001145316 単行本(ソフトカバー) 2000/11 ¥882

『時の旅人』 A TRAVELLER IN TIME

著:アリソン・アトリー Alison Uttley
挿絵:フェイス・ジェイクス(1978年パフィン版による)

底本:A Traveller in Time(Faber and Faber,1965)

訳:松野 正子

岩波少年文庫531(岩波書店)

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身体の弱いペネロピーは療養のため大おばの住む
サッカーズ農場を姉兄とともに訪れる。
古くより貴族に仕え、農場を守り続けてきた先祖のぬくもりが
ペネロピーを暖かく迎えてくれる。

以前からペネロピーには何かが「視えた」。
鏡の中に映し出される青白い顔をした「私」が
ふと違う女の子に見えるとき、ペネロピーは
不思議な想いに囚われていた。

大おばのティッシーはペネロピーがが「視えた」ことについて
誰にも言ってはいけないという。
昔一族にそんな人間がいたことをティッシーおばさんは
知っていたのだ。

あるときは屋敷の二階で、階段で
彼女は過去のひとびとの暮らしを垣間見る。
それはだんだんとはっきりしていき
やがてその中に溶け込んで行くように
ペネロピーは16世紀に迷い込む・・・。

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スコットランドの女王メアリ・スチュアートは
幽閉中何度か支持者によって脱走を試みたという。
女王を逃がす計画に加担し、絞首台に上った
と言われる貴族アンソニー・バビントンの荘園に
時を越えて現れた少女。

自分の置かれている状況をまだ飲み込めないペネロピーは
自分の先祖にあたる女性シスリーに会う事ができる。
ティッシーおばのような人のいい彼女は
屋敷の台所を一手に預かる女中頭のような存在である。
ペネロピーは16世紀で路頭に迷うことなく
ひとまず落ち着く先をみつけた。

16世紀の人たちにとってペネロピーは異質の存在だが
貴族のアンソニーや弟のフランシス、女主人たちにも
気に入られ、時を過ごしていく。

しかしその間も時折現代に戻り、また過去に彷徨うという
繰り返しがあった。不思議なことに過去の時間は進んでも
現代の時間は一秒も進んでいなかった。

やがてペネロピーはアンソニーたちの想いと同調しつつ
メアリ逃亡の計画に巻き込まれていく・・・。

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この本は中学生以上推奨らしい。
主人公がだいたい11〜14歳の間のお話とのことで
同じ位の年頃の女の子にぜひ読んで欲しいと思った。
というより、自分がその頃読んでみたかった(笑)

時駆けモノは古今東西年齢幅広く存在するが
これはかなり面白いし、前述したことはともかく
幅広い年齢層の人にお薦めしたい。

農場の自然や人の暮らしぶり、屋敷の内部、
料理、した働きから貴族まで服装や趣味・・・
こまごまとした描写が素晴らしい。
文章や単語から想像するだけでは実物には及ばないので
その時代の調度品や服を見てみたいなと思う。

またペネロピーの淡い恋心が少しずつわかるくらいの
控えめなエピソードがとても良い。
本人がなかなか自分の気持ちに気付かないあたり
思春期の女の子のイメージとして懐かしく思う。

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襟巻きトカゲのよーな立て衿と
ちょーちんブルマーな当時の貴族の男性の服装を
想像するとどうも崩れていくが・・・。
登場人物の青年少年も魅力的に描かれている。

「ロマンスもの」と冠をつけるほど俗ではなく
その手の場面はほのか〜に薫るとこがいいし。
ラストも良かった。と私は思う。

タイムスリップが前面に出たSFファンタジーでも
重厚な歴史ドラマでもなく。

子供たちに、若い人に読んで欲しいって想いから
丁寧に描かれた物語は、かえって大人心にも響くと思う。

あと上手な作家さんがコミックや
アニメーションにしてくれたらいいな〜と思いました。
ペネロピーが過去と現代を行き来するとき
「彷徨いこむ」様子は映像的にも面白いだろう。

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翻訳は読みやすかったが、よくある台詞回しのときの
「訛り」「語尾」、高貴な人の話し方は
イメージするの難しそうだと思った。

昔の日本のお姫様のイメージのように仰々しかったり
下働きのひとたちの訛りを「〜するだ」「〜けんど」とか
どこの方言が混ざってるのかまぜこぜ語尾にしたり。

英語など外国語の、地域による「訛り」を訳するとき
素朴な田舎のひとたちの話し方を工夫するのは
イメージを湧きやすくするために必要だとは思うのだが。
関西弁をはじめ、「〜じゃけん」「しとっと」なんて
台詞があったら違和感があるんだろうけど・・・。
関東北部や東北やらのコトバを田舎言葉に混ぜ込んで
適当に「すっぺ」「だっぺ」とやるのはやめれ。と思う。

他に代替案は?
・・・・無いかなあ・・・。

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