桜の文学史

2005年2月25日 読了本
『桜の文学史』
ISBN:402260641X
著:小川 和佑
朝日文庫(朝日新聞社) 1991/03 ¥479

目次

1 さくら讃歌=プロローグ

日本の春
≪桜の樹の下には屍体が埋まってゐる!≫
さまざまのさくら

2 古代のさくら=飛鳥・奈良時代

秋に咲くさくら―『日本書紀』のさくら
さくらの歌物語
「桜華」をめぐって
万葉のさくら
桜児説話
平城京のさくら

3 王朝絵巻のさくら=平安時代I

さくらの歌―平安京の春
憧れと郷愁の花
散りゆくさくら
さくらの物語―伊勢・源氏など
『古事談』と南殿のさくら

4 薄命に咲く=平安時代II

移りゆく時代に
武門のさくら
さくらと吉野信仰
薄明に咲く―桜町中納言と泰山府君―『平家物語』のさくら

5 さくら美の完成者たち=鎌倉時代

唯美者たちのさくら観
西行桜―シダレの可憐さ
さくらの唯美者
東国のさくら―実朝
定家・そのさくら観

6 さくらのドラマツルギー=室町時代

室町さくら文化前史
常照皇寺の御車返し―里桜花開く
『花筐』・甦る王朝のさくら
継体伝説と淡墨桜

7 聖から俗へ=桃山時代

広がるさくら美の波紋
『閑吟集』の風流
醍醐の花宴―さくら観の転換

8 新しいさくら文化の開花=江戸時代

生活文化のさくら
『江戸名所花暦』
さくら図鑑の流行
江戸のさくら流行―芭蕉のさくら
蕪村・一茶―天明のさくら
攘夷と「国華」―思想化するさくら

9 文明開化とさくら=明治時代

さくらが変わる―ソメイヨシノの出現
文明開化とさくら
明治の花見―ベルツの日記から
ハーンの『怪談』―不思議なさくらに因む物語
散る花といのち―さくら観を変えた思想
祇園のさくら―吉井勇の「祇園冊子」
新体詩人たちのさくら観

10 さくらの歌びとたち=大正時代

さくらの歌びとたち
白秋・空穂・迢空
朔太郎・犀星のさくら

11 昭和文学の桜譜=昭和時代I

死のさくら―梶井基次郎
咲き極まるさくら―三好達治・谷崎潤一郎
坂口安吾『桜の森の満開の下』―さくらの復権
石川淳の桜鬼―『修羅』中世の物語
現代詩のさくら

12 現代文学に咲く=昭和時代II

浪曼派のさくら―五味康祐のさくら
さくらの復興―水上勉『桜守』
宇野千代の『淡墨の桜』
惑いの花―渡辺淳一の『桜の樹の下で』
終章・中村真一郎のさくら愛―『雲のゆき来』『美神との戯れ』

日本各地のさくらの種類・名桜名所10選・日本のさくら一覧

あとがき

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・古典から現代まで『文学』に観るさくら、さくら観。
 文学者たちの目に映るさくら。
 愛して語る、評する。

・毎年季節になると静かに流行る「さくら」をテーマにした
 今の歌を、著者はどう思うか訊いてみたい。

・著者が本居宣長のさくら観がキライなのはよくわかった。
  「彼は詩的想像を全くわかってない」
  「彼のさくら愛はきわめて視野の狭い強烈な自己愛の愛であった」
  「宣長の出現によって、従来のさくら観、
   あの生の輝きとしてのさくら、
   そして美しい女人の面影を誘った優しいさくら、
   また行く春の愁いをたたえた繊細な感性を育てたさくらは、
   『血潮のさくら』に覆われた」
  
・・・と、こうやって抜粋引用すると
これまた誤解を招くかもしれないが。

宣長の時代の章だけでなく、各章ところどころで
彼について酷評しているので実際に宣長が嫌い、なのか、
彼の思想やらさくら観がホントにイヤなんだろうな、と感じた。
あと、近代から戦中の「皇国史観のナショナリズム宣揚の花」
としての「国華さくら」が哀しくて仕方ないんだと思う。
これだけ桜、愛されてるんだなあ。

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作品中、語られている桜はどの桜か。
都市の桜、鄙の桜、故郷の桜。
いろいろな種類の桜のなまえ。
推理される様子も楽しい。

桜博士って呼びたくなるくらいたくさんの
桜が記述されているのに、実物カラー写真が無いのは
誠に惜しい。文庫版の他に、近年新書から同タイトルで
改めて(?)刊行されているようだが、そちらでは
写真なども載っているのだろうか。

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私は桜、大好きなので、最初からとても興味深く楽しく読めた。
好きなものは熱く語るべし。
それが例えちょっと極論だったり偏ってたりしても
その情熱で読ませるときもある。

ただ最後の章(12)の現代小説に関しては、
著者の趣味全開なので、ところどころしか共感しない。

桜と恋、桜と女人、桜とエロスは確かに魅力的で
美しい画や映像を連想させる。
美しい女人の面影・・なるほど・・(?)

谷崎はともかく渡辺作品で『王朝文化の伝統が、ようやく
本流に戻ったといえる』と断言しているのを読んで
そりゃ、センセイの趣味好みに合うからやろと
ツッコミ入れさせていただきたいと思う。

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