「英国流立身出世と教育」

ISBN:400430234X 新書
著:小池 滋
岩波新書(岩波書店) 1992/06 ¥561

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『身をたて名をあげ、やよはげめよ』
かつての日本だけでなく、<立身出世>を夢見て
教育に力を入れる親、そして勉学にいそしむ子供たちは
イギリスでも同様にたくさんいた。

社会階級によって厳然たる差別(区別)がある英国。
産業革命によって近代化がすすむイギリスにおいても
垣根を越えるには、人より優れたる学力能力を要した。

有名なディケンズ、ブロンテ姉妹などの作品を引用して
当時の教育とその裏側をわかりやすく説明してくれた。

ただ、作者の本当に言いたいことは
英国の教育史の側面について暴くことだけではない。
日本人はどうなのか、最後に厳しく問いかけてくる。

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ガヴァネスという単語をちゃんと意味とともに
知ったのは森薫氏の『エマ』だと思う。
それまで聴いていたとしても意識しなかった。

その後、船戸明里氏の『アンダーザローズ』を
オンラインコミックで読んだ。

なので、この新書はこのニ作品に影響されて選んだもの。
特に後者作品のメインキャラである眼鏡の似合う女性の設定は
本書『英国流〜』に描いてある女性の境遇と同じだ。

上流階級や「身分のきちんとした」女性が稼ぐこと、
働くことへの否定。だが生きていくためのお金は
空から降ってくるわけではない。
豊かで身元のしっかりした夫の庇護を受けなければ、
独身のまま自活するのも困難だった牧師の娘の立場。
下層の労働者階級ならば、お針子でもなんでもして
金銭を得ることもできるのに、それができない面子。

『アンダーザローズ』の副読本としてもかなりお薦め。

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新書ゆえに文字数ページ数から、話したいこと綴りたいこと
すべてを書くのは控えよう、という著者の「ことわりがき」が
何度も出てくるのだが、その代わりに、他の参考文献を
何冊も紹介してくれるので、資料探しにも役立つ。
今までも「新書」を読んできて、こういう本は、
そういう役割もあるのかなあ、と思った。

それと、作者が好きな分野を楽しんで(?)書いているのが
伝わってくるような文章だったので、読んでいて引き込まれた。

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